毎日中学生新聞 1978(昭和53年)1月31日掲載
初めて海を渡る日本の昔影絵劇
「かかし座」制作の映画
フランスなど八か国のテレビ局へ

 浦島太郎や、サルカニ合戦……などわが国の昔話が、初めてテレビ映画で世界に紹介される__。影絵の「かかし座」(東京・渋谷区渋谷3の25の4、ゲマービル、藤泰隆代表)は、わが国の昔話を影絵映画として制作、TBS系テレビの「ちよ太郎こども劇場」(毎週土曜日午前七時二十分)で放送しているが、フランスのテレビ局が「日本の昔話のおもしろさは、世界の子どもたちでも十分理解できる」と買い入れ、この四月からスイスなど八か国のテレビ局にも配給、放送されることになった。
 わが国には、外国製のテレビ映画のフィルムは、年間千本以上も輸入されるが、逆に輸出される日本製のフィルムは、わずか数十本で、圧倒的に外国製が優勢。しかも輸出される日本製フィルムも「アルプスの少女ハイジ」のように、外国の話が多く、純粋な日本の昔話が世界のテレビで放送されるのは初めて。「世界の子どもと“心の交流”になる」と関係者は喜んでいる。
 「かかし座」は、戦後、藤代表が始めたもので、三十年の歴史を持ち、全国各地の小、中学校を巡回して上演したり、NHKの語学や児童番組を制作、わが国では有数のシルエット劇団だ。
 外国のシルエット劇は、明暗の濃淡が強過ぎて、テレビの放送には難しい点が多かった。そこで藤代表は、カラーセロハンを何枚も重ね合わせて、淡い中間色を出すのに成功、独特のシルエットを作っている。
 千代田生命の提供による同こども劇場で、声優の熊倉一雄さんの語りで「かぐや姫」などわが国の代表的な昔話を、一回十五分の影絵にして放送してきた。
 ふつう影絵は生放送だが、「かかし座」ではフィルムに撮影、映画にしておいた。これをわが国のテレビ児童番組輸出入代理店が知り、フランスの同業者に連絡した。それを見た放送関係者は、同劇団特有の中間色の美しさに、目を見張ったが、それ以上に「一寸法師」などの話の面白さに興味をひかれたという。
 関係者は「これなら世界の子どもたちにも理解できる。面白い話だ」と感嘆の声をあげ、購入することになり、同放送局と取り引きのある、ベルギー、カナダ、アルジェリア、ルクセンブルクなど八か国の放送局にも売られ、この春に放送されることになった。
 フランスで放送されるのは同劇場で放送した七十五本から「桃太郎」や「耳なし芳一」など二十数本。どれをとってもわが国を代表する昔話ばかり。わが国を代表する昔話ばかり。わが国のテレビ児童番組は“アンギラス”などの怪獣物が東南アジアなどに輸出されているが、昔話の輸出ははじめて。
 わが国の昔話を英語で紹介した本はアメリカやイギリスでも出版されているが、いずれも学者などが日本文化を研究するための資料用。藤代表は「テレビ映画で世界の子どもたちに日本の昔話が紹介されるのは初めてだろう」といっている。

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