むかし、ある村に悪吉というとても乱暴な若者がおりました。
からだが大きくて、人一倍力が強いので、だれもかなう者がおりません。
ですからとてもいばっていました。
そのうえ、人間や、生きものを見ると必ずいじめたくなるという悪いくせを持っていましたので、今ではだれも傍へよる者もありません。
犬や猫でさえ、遠くから悪吉の姿を見つけるとさっさと逃げてしまうようになっていました。
悪吉はすっかり退屈してしまいました。
いじめる相手が見つからないのです。
「よし、それなら裏の山へ行って、穴の中で眠っている蛇や蛙をひっぱり出していじめてやれ!」
そう思いついた悪吉は、ある日鍬を一本かつぐとさっそく裏山へのぼって行きました。
蛇のいそうなうす暗いやぶのあたりで、悪吉は鍬をふりあげました。
その時です、「がんばれ悪吉!くそぢから!」と叫ぶ声がしました。
びっくりした悪吉は、ふりあげた鍬をおろしてあたりを見回したのですが、だれもいる様子はありません。
そら耳かなと思って、もう一度鍬をふりあげました。
するとまた、「がんばれ悪吉!くそぢから!」と、叫ぶ声がきこえます。
悪吉は二度もきこえたのだからそら耳ではないと考えました。
「やい!だれだ。この悪吉さまをからかうとひどいめにあうぞ!ちょうどいじめる相手がなくて退屈していたんだ。やい!かくれていないで出てこい!………」
「出てもいいんですか悪吉さん。よければ出ますよ。悪吉さんはおどろかないでくださいよ」
「うるさい!よけいなことを言わずにさっさと出てこい!」
そのとたんでした。悪吉の目の前にあるやぶががさごそとゆれたかと思うと、その中から一つ目小僧があらわれたのです。
「だれかと思ったら、なんだ一つ目小僧じゃないか、この俺さまにいじめられたいのか?」
悪吉はへっぴりごしで鍬をふりあげたのですが、どうしたことでしょう、その一つ目小僧はぴょこんと一つおじぎをするとこんなことを話しはじめたのです。
「悪吉さん。あなたは私の恩人です」
「え!なんだって、恩人だって」
「私はあなたのおかげでこの世に生まれることができたのです。私たちお化けは、人間たちが生き物をいじめるたびに一匹ずつ生まれることができるのです。おかげさまで、今ではこの山はお化けでいっぱいです。毎晩この山ではあなたのお化けが酒盛りをやって、歌をうたってさわいでおります。ぜひ一度お呼びしなければと皆で話し合っていたところなのです」
「うそをつけ!そんなことってあるものか、さては、おまえは狐か狸だな、これでもくらえ!」
悪吉は鍬をもう一度ふりあげると一つ目小僧にうちかかりました。
ところが小僧は、いつのまにか二人にふえているのです。二人になった小僧は口を揃えていいました。
「ほらごらんなさい。私の言うとうりでしょう、あなたが生きものをいじめるたびにお化けが生まれることになっているのです」
「何を!このけだものめ!」
かんかんにおこった悪吉が鍬をめちゃくちゃに振り回すものですから、一つ目小僧はみるみるうちに何百人にもふえてしまいました。
「がんばれ悪吉!くそぢから!それ!がんばれ悪吉!くそぢから!ほい」
悪吉がおこればおこるほどお化けたちは喜んではやしたてました。そのうちに悪吉はすっかりくたびれてしまったので、「よし!おぼえていろ!」と叫ぶと、よろよろと山を降りて行ってしまいました。
その夜おそく、悪吉の裏山から火が出ました。
悪吉がお化けをやっつけようとして火をつけたのです。
村人たちがおおぜいやってきてやっとのことで消しとめたのですが、よく調べてみるとその中で悪吉がたいまつをもったままやけ死んでいました。
たくさんのお化けたちは、悪吉が死んでしまったので、その時みんないっしょに死んでしまったということであります。
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