尻尾のはえてるお月様
昭和41年10月号


月のよい夜
みんな気をつけな
山のお寺でポンポコポンと
狸の太鼓がきこえるときは
まんまるまるまる十五夜さんは
すすきのかげから魔法をかける
雲のかげから魔法をかける

 昔、ある山奥に兎の母子が住んでいました。小兎の名まえはミミちゃんといいました。
ミミちゃんにはおとうさんがありません。ずっと前に病気で死んでしまったのでした。
けれどおかあさんは、いつもこういってミミちゃんに話してきかせていました。
「おうちのおとうさんはね、おもちつきがとてもじょうずだったので、月の女神さまに呼ばれて、月の御殿でおもちをつく係りになったのです。それでとてもいそがしいので、なかなかおうちへ帰るひまがないのですって」ミミちゃんは、いくらおとうさまのお話をきいてもつまりません。
お話だけでは満足できません。一目だけでも会いたいと思っていました。
 ある日、小狸のポン吉がこの話をききました。
ポン吉はミミちゃんより少し年が上だったので、ミミちゃんのおとうさんが死んでしまって、いないこともよく知っていたものですから、とてもかわいそうに思ったのでした。そこで、ポン吉はミミちゃんへ手紙を書きました。
<かわいいミミちゃんへ、元気ですか、僕も元気です。今度の十五夜のお月さまをよくながめてください。きっとおとうさんの姿が見えると思います。十五夜のお月さまは、いつもよりすっと大きくて、明るいからです。ポン吉より………>ポン吉は、おとうさんからいろいろなものに化ける化け方をおそわっていたので、ミミちゃんのためにお月さまに化けてあげようと思ったのです。
もちろん、おとうさん兎の姿をうつしたお月さまにです。
ポン吉はおとうさんに頼んで、自分のおなかに兎のもちつきの絵を書いてもらえました。いよいよ十五夜になりました。ところが困ったことに、いつも十五夜お月さまの出る所はお山のてっぺんの高い松の木の上なんです。もともと木登りはじょうずな方ではありませんので、登るのに苦心しました。それでもミミちゃんを喜ばせようと、夢中になって登りました。からだじゅう傷だらけになってしまいましたが、それでもやっと松の木のいちばん上の枝にしがみつくことができました。ドロン、ドロン、パッ!ポン吉は、みごとなお月さまに化けました。
「あ!おとうさんだわ!」これを見ていたミミちゃんは、びっくりして飛びあがりました。
「おかあさん!十五夜お月さまの中に、おもちをついているおとうさんが見えるのよ、おとうさーん!おとうさーん!」ミミちゃんのうれしい叫びが、ポン吉にもきこえました。
「ああ、これでいいんだ。よかった、よかった」ポン吉がそう思った瞬間でした。ビシッと松の木が折れたのです。ポン吉は、どしーんと地面にたたきつけられました。しかしポン吉は、自分のからだの痛さも忘れて、もう一度松の木に登ろうとしました。あんなに喜んでいたミミちゃんがこのことを知ったら、どんなにがっかりするだろうと思ったからです。
ところが、ひょいと松の木の上を見ますと、あれ、いつのまにあらわれたのでしょう、ほんとうのお月さまがポン吉を見て、にこにこ笑っているではありませんか。
「ポン吉、おまえはほんとうにやさしい狸ですね、私は雲のかげからそっと見ていました。これからは、私も十五夜のときは忘れずにもちつき姿をうつしましょう。さあ、あなたも安心してミミちゃんのところへいってあげなさい」
美しいその声は、たしかに月の女神さまに違いありませんでした。
「お月さまありがとう」
ポン吉は一声高くお礼をいうと、痛さも忘れて、まるで兎のようにピョンピョンとはねていきました。
もちろんミミちゃんの喜ぶ顔を見にです。
きっとポン吉さんは、ミミちゃんは好きだったんですね。