「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて」
後藤 圭
「文化芸術懇談会 in 横浜」第2部 公聴会より 2006年6月13日
公聴会「文化芸術の振興に関する基本的な方針の見直しについて」
ご紹介にあずかりました「クリエイティブステップ横浜実行委員会」の後藤圭でございます。 本日は機会をいただきありがとうございます。 拝見させていただきました「基本方針」の策定、及び「今後の課題について」は今後の文化振興の大きな拠り所として高く評価できると思います。 今回は、地域文化振興、及び芸術創造者の視点からの意見を述べたいと思います。 以下の3点です。 1.児童青少年の芸術文化の鑑賞機会の充実。 2.文化施設の充実。 3.助成制度の健全な活用。
以下説明を致します。
1.児童青少年の芸術文化の鑑賞機会の充実。 児童青少年期に於ける芸術文化鑑賞の重要性は論を待たないところでありますし、基本方針にも大きく謳われています。しかし、この何年か小学校、中学校、鑑賞団体等に於ける鑑賞機会は様々な要因により減少の一途をたどっています。資料によれば年間10%の継続的な減が確認されており、平成14年と16年の調査で20%の機会が失われているのです。全体でかなりの規模で鑑賞機会が失われているのが実態であります。 原因は多岐にわたっていますが、少子化による一校あたりの予算の縮小、週5日制度による授業時間の不足、などが現場では挙げられています。 国の施策としては「本物の舞台芸術体験事業」をはじめとした取り組みが近年盛んに行われておりますので、国自体の事業予算は増えていると思います。 しかし、単位の学校や教育委員会と芸術団体個々との取り組みの方が、数としてはまだまだ圧倒的に大きいわけです。 この部分の鑑賞機会が様々な理由によって大きな減少を見ております事は、やはり憂慮すべき事であると思います。 鑑賞機会の充実について、国を含めた多角的な取り組みの検討が必要と思います。
2.文化施設の充実。 文化施設が、優れた創造、交流、発信の拠点となるべき事は「基本的な方針」にも見る事が出来ますが、実態はとても難しくなっています。昨年から始まった指定管理者制度の中では、横浜市内の施設にあっても大幅な経費削減が募集の段階から提示されており、一館せいぜい一億円程度のホールの維持経費を3千万円も削って提示する事が平然と行われています。 これは従来の管理者である直轄財団に対する不信感の現れかもしれませんが、これでなおかつ従前以上の優れた運営や企画を期待するのは無理があると言わざるをえません。 不当な経費に関しては削減して行くのが当たり前でありますが、こと芸術文化振興といった分野にもそれを単純に当てはめて行く事は問題であります。 最近起こったエレベーター事故のニュースの中で、製造者と管理者、設置者の関係が取りざたされておりますが、安く上がる事を絶対の良策と考える事は大変な危険を伴う事でもあります。 芸術文化の拠点を構築する原価に関しての論議には「哲学」が重要であり、哲学を持ち合わせない文化行政論議は不毛である、と指摘しておきたいと思います。
3.支援制度の健全な活用。 支援制度そのものは以前に比べ格段に充実、多様化して来ており、これ自体は大変喜ばしい事であります。反面、従来の支援制度にあるいくつかの問題が取り残されている様に思います。その中で一番の問題は「自己負担金、及びその他の収入」です。助成金の額はたいていの場合「対象経費の半額以下」に定められており、これは当然の事ながら申請団体が「自己拠出金、又はチケット売り上げ、その他の収入」によって手当をする事を前提としています。これは申請団体が充分な資金力をもつ場合、(行政、又は行政直轄の財団等)公益的な見地から有効な基準であると考えられます。ゆえに文化行政初期に於いてこの基準が一定の役割を果たした事は否定出来ません。 しかし申請団体が「芸術団体」である場合、この基準は合理的ではない場合があると思うのです。単純に言ってしまえば国内の「芸術団体」で実質的に「自己負担金等、その他の収入」を準備出来る団体はとても限られています。 ほとんどの「芸術団体」にとって支援金と同額以上の「その他の収入」を確保する事はとても難しい場合が多いのです。 「芸術文化」は、もともとそれを享受する市民の感じる経済的な価値と、実際の原価のバランスをとる事がとても難しいのです。 今後の税制、景気の動向等、芸術団体にとってより厳しい環境が予想されているとき、もはや合理性に欠けるものになるのではないかと考えます。 「芸術団体」が飛躍を試みる時に、助成制度はとても重要です。 限られた資源を、関係諸氏の英知を集めて有効かつ健全に運営、活用して行くためには支援・助成制度の基準の新たな検討が必要と思います。