影絵劇祭見聞記
劇団かかし座代表 後藤 圭

アシテジNo.96 掲載
2007年1月 発行
アシテジ日本センター




10月中旬の約一週間を使って南ドイツの静かな田舎町シュバーヴィッシュ・グムントでトリエンナーレ開催されている影絵劇フェスティバルへ足を運びました。影絵劇だけのフェスティバルは大変に珍しく、私の知る限りこのドイツのフェスティバルと中国唐山市のフェスティバルだけです。中国のフェスティバルは中国の伝統芸能である皮影戯が主体であり、このドイツのフェスティバルはヨーロッパ式(という方式があるわけではない)が自然とその主体になっています。正式名称は「7. Internationales Schattentheater Festival(第7回国際影絵劇フェスティバル)」今回の開催は10月16日~21日の6日間。公演団体は8カ国15作品。EU圏外からはタイ、カナダの2カ国の参加です。
ツアーは人形劇関係者の集まりである日本ウニマの皆さんのお世話になり、楽しい旅をする事が出来ました。
以前から感じている事ですが、ヨーロッパ系の人形劇や演劇には面白い特徴があります。それは観客に対するアプローチよりも自分たちの表現に、より興味を持って優先しているように感じられる舞台の多い事です。もちろんこれは全部に当てはまる事ではないのですが、レベルの低い作品の場合この傾向がとても顕著です。ただしどこかの国の様に観客にこびるという様な事は見られません。ただし、これがレベルの高い作品になるとヒューマンでわかりやすく、インターナショナルで完成度の高い作品が突然出現するのです。
今回のフェスティバルでもこの傾向は強く感じられました。
今回の参加作品で気がついた特徴を挙げてみましょう。

1. 影絵美術がモノトーンであること。
色彩の使用にはあまり興味を持っていないらしい。「影絵」というものに対するイメージの違いかもしれない。
2. もう一つはデザインが省略的である事と、その線の引き方が直線的である事。細かくリアルなデザインはかなり少ない。
3. 「影絵」の「絵」の完成度を上げる事にあまり努力を払わない。
スクリーン上を「絵」としてとらえる意識はあまりないのかもしれない。
4. 「人形」をあまりはっきり見せない様に操演を行う傾向がある。
素早く動かしたり、ぼかして映したり、要するにあまりはっきり観客の目に留まらない様に操演する事が多い様だ。

以上、日本の私たちの感覚と比べた場合の特徴を4点挙げてみましたが、もちろん他にもいろいろな特徴があって舞台の成果に対してプラスにもマイナスにも働いています。ドイツ語「Schattentheater」の「Schatten」、英語「Shadowplay」の「Shadow」も「影」であって「影絵」ではありません。私たちは「影絵」という言葉に象徴される様に「絵」としての意識を多かれ少なかれ持っていますが、そうした意識は海外の場合、ヨーロッパに限らず希薄な様です。

今回のフェスの閉会式では、ほとんど全部の作品を見た参加者に投票をさせてその人気順位を発表するという催しが行われました。上位作品から2作品を紹介しましょう。

1位「ピーターと狼」Theater Laku Paka (ドイツ)
今回のフェスティバルテーマが「影絵劇と音楽」であった事もあって有名な劇音楽やバレエ音楽に題材を求めた作品が多かったが、この作品がもっともバランスよく仕上がっていた。プロコフィエフの同名の名曲を駆使し、演奏者がフルートとソプラノサックスを持ち替えで旋律をテープの音楽に合わせて演奏する。なかなか達者である。デザインは直線的な省略性の高いもの。ストーリー展開も安定していて見易く、幅広い観客に受け入れられる作品。

3位「オルフェオの歌」Controluce Teatro D’Ombre(イタリア)
旧市街はずれの公演にある大きな会場Congress-Centrum Stadgartenで公演された割合大きな規模の作品。イタリアの定評ある劇団によるギリシャ神話のオルフェウス伝説の舞台化である。舞台上には大きな布が幾重かに用意され、ダンサーが登場しダンス的な動きとその動く布に映される影で見せていく。複雑な布の動きとダンサーたちの動きが不思議な空間を作っている。観客対象は中学生以上位であろう。散漫になりやすい手法をとりながら良くまとめていた。