「アシテジ」No.108
2010年1月
編集・発行:アシテジ日本センター

シュべービッシュ・グミュント国際影絵劇フェスティバル

後藤 圭
(劇団かかし座代表)



私たち劇団かかし座は、今年10月にドイツで行われた「シュべービッシュ・グミュント国際影絵劇フェスティバル」に参加してまいりました。劇団かかし座は今まであまり海外公演に熱心ではありませんでした。これまでの海外公演は2004年の「UNESCO-APPAN Sympojium and Festival Puppets」(タイ)と、「2005中国唐山国際皮影芸術展演」「ソウル国際児童青少年演劇フェスティバル2007」の3回だけです。

全編手影絵だけの新作で
今回の参加に私はいくつかの思いを託していました。「全編手影絵の新作を持って参加する」ということだけは最初から決めていました。
手影絵だけの1時間の作品が実行可能なのか、台詞の無い影絵劇があり得るのか、これまで積み上げて来た技術や表現力が海外、特にヨーロッパで受け止めてもらえるのか、など模索してみたい事は沢山有ります。そのために日本で公演している作品を持って行くのではなく、あくまで国際コミュニケーションを前提とした作品を試す必要がありました。

不安を抱えての出発
レギュラーのスケジュールをこなしながらストーリーを考え、そのストーリーに必要な新たな手影絵のキャラクターを試し、まとめていくのはかなり困難でした。メンバーで知恵を出し合いました。出発の間際までかかりましたがなんとか構成も音楽も間に合い、作品の用意が出来ました。
私としては面白く作ったつもりでしたが、ヨーロッパ人の観客など全く未知数ですし、反応も予想がつきません。私たち一行(キャスト4人、テク1人、マネージメント1人と私)は不安を抱えながら出発しました。
経費の節減のためにモスクワ廻りのアエロフロートを使ったり、アエロフロートに預けたスクリーンがミュンヘンで出てこなかったり、いろいろありましたがなんとか準備が整い客入れを待つばかりになりました。
今回はフェスティバルのオープニング公演を皮切りに3ステージ.の公演、2回のワークショップを3日間でこなすスケジュールです。でもフェスティバルの開幕を任せてもらえるのはとても名誉な事です。なんとか受け入れて欲しいものだ、なんとか気に入ってくれると良いが…。
開場して入って来るヨーロッパ人達を眺めながら私は祈る様な気持ちで開演を待ちました。

鳴りやまない拍手
主催者の挨拶があり、照明が落ち、音楽とともにステージがスタートしました。
約1時間の公演中、私は夢の様な時間の中にいました。シーン毎にはじける笑いと拍手、本当に本気で拍手をしてくれているのが良くわかりました。そして鳴り止まない拍手というのもめったに出来ない経験でした。
彼らは私たちの公演を明らかに受け入れてくれたのです。かかし座のメンバー達も本当にうまく演じる事が出来ました。素晴らしい出来と言っても差し支えなかったと思います。
オープニングから「March of Animals」ワークショップを挟んでメインのストーリー「Penta & Penko」そしてアンコールという構成でした。
影絵フェスだけに観客に詳しい人が多く、難度の高い手影絵のキャラクターなど、登場するだけで拍手をもらいました。私は気持ちが高ぶり、目が潤むのを止めることができませんでした。終演後、このフェスを長年育てて来たRainer Reuschや、現総合ディレクターのSybille HIrzelも大変喜んでくれました。

アンコールの大合唱
後、2回の公演も大好評でした。特に最後の公演は子どもたちの団体鑑賞でしたが、実に良く見てくれました。最後は「アンコール!アンコール!(ドイツ語で)」の大合唱!嬉しい限りでした。
今回の公演は大成功と言えると思います。事前には心配もしましたが、ヨーロッパ人の大人にも子どもにも受け入れてもらうことができました。他のフェスティバルからもすぐに声がかかり、来年はもう一度ヨーロッパでの公演が実現しそうです。
関矢幸雄先生から「かかし座は影絵劇団なのだから手影絵をやりなさい。手影絵にはとても豊かな可能性があります。」と言われてから20年以上が経ちました。そこから始まった手影絵探求はまだまだ路半ばです。

「命を吹き込む」
でも今回そのプロセスの中で、確かな手応えを感じることができました。
このドイツで公演した手影絵だけのステージは3月に横浜でお披露目公演を予定しています。皆様、是非会場までお運び下さい。
もう一つお知らせがあります。この作品のタイトルが決まりました。
「Hand Shadows ANIMARE」です。ANIMAREはラテン語でアニマルやアニメーションの語源ですが、「命を吹き込む」という意味の様です。劇団かかし座はこれからも影絵に素敵な「命を吹き込む」事を試し続けていきたいと考えています。