常設公演と海外公演
劇団かかし座近年の取り組みより

劇団かかし座 代表 後藤 圭



私たちの近年の活動の中から、今回は特徴的な2点についてまとめてみました。どちらの取り組みも、出来れば皆様に見ていただきたいものです。機会がありましたら、是非お運びくださいませ。

下呂市合掌村しらさぎ座での常設公演
劇団かかし座が下呂市の「文化伝承公演事業(影絵昔話劇)」で行っている下呂温泉合掌村しらさぎ座での常設公演ですが、オープンから3年目のシーズンに入りました。現在まではおおむね好評、好調で沢山のお客様を迎えることが出来ています。毎年2月中旬から6月初旬までの前期公演(春・さつき公演)と、7月中旬から11月末までの後期公演(夏・もみじ公演)を行っています。現在の年間実績は、公演日約230日観客総数は約3万人といったところです。
作品も今のところ毎年一本ずつ新作を仕込んでいて来年(11年)2月には5本目の作品をスタートさせることになっています。ラインナップは08年7月(プロジェクトスタート時)「しらさぎ伝説」「お美津ギツネ」09年2月「力持ち小太郎」10年2月「孝子が池」と続き、次の新作は「祖師野丸」に決まっています。
どの作品も下呂市内の伝承、昔話による作品です。もちろん昔話そのものは断片的なものもあり、材料の揃っていないものもあります。そうした素材を集め、現地を歩き、話を聞いて再構成していくわけですが、なかなか骨の折れる仕事です。ですが、そうして生まれた作品がまず地元の人々に支持され、歓迎されなければこの仕事は成り立ちません。
冒頭に観客数などを書きましたが、多い様に見えますがこの数字ではまだまだ維持発展には結びつきません。もちろんこの事業は市の主催であり、興業の成否の最終責任は下呂市と合掌村にあります。しかしそれでは私たちは興行成績に責任がないのかというと、そうでもありません。やはり土地の人たちに支持され、一緒に興業を成り立たせていかれるようにする責任があります。
「ここに来たらこんな楽しい思いが出来た。」という意外性や、「こんな山奥にもこんなに素敵なお話がある。」という発見が必要です。お客様が訪れた下呂という場所に付加価値を付けて「良いところに来た。」という満足度に貢献しなければなりません。
仕事というものは、よく需要と供給などという言葉で説明されますが、私たち劇団の仕事は多くの場合、需要を開拓していく仕事でもあります。多分下呂市が観光地、温泉地として生き残っていくためには、凡百の温泉地並の事ではもはや成り立たないのだと思います。下呂市の将来に向けての一つの試みとして期待されている事をとても感じます。
不況の波は確実にこんな小さな町にも押し寄せています。私たち劇団かかし座が出来ることなどたかがしれていますが、最近はリピーターの方も多くなっています。今までの全作品を見てくれている人もいます。少しでも下呂温泉のお客が増え、発展に寄与し、そして私たちの実績が認められるようになってみたいものだと考えています。

「Hand Shadows ANIMARE」海外公演
かかし座は数年前まで海外交流にあまり興味を持っていませんでした。理由はいくつかありますが、影絵劇は荷物が多い事もその理由の一つでした。また、劇団かかし座の影絵劇は日本語による表現にかなりの比重があるので、これをそのままの形で外国語などに変更することが難しかった事もあります。
しかし、父(創立者とう・たいりう)の時代には、まだまだ日本製TV番組の輸出など行われていなかったその時代に、かかし座の制作・著作による影絵のTV番組が、一早く海外のTV映画祭で注目を集めたり、他に先駆けて世界に輸出された歴史も持っています。
私はここ何年か、「機会があれば海外へ出て世界中の人たちにかかし座の影絵劇を楽しんでもらいたい。」と考えるようになっていました。「私たちの仕事を、もっともっと広く知ってもらいたい。」という願いを持つようになったのです。
しかし私たちは過去において04年APPANのSympojium and Festival Puppetsバンコク、05年中国唐山国際皮影芸術展演、ソウル国際児童青少年演劇フェスティバル2007、と3回しか海外公演の経験はありません。その3回の公演はいずれも国内向けのかかし座の作品に若干の手を加えて訪問国の言葉などを取り入れた形のものでした。
私は次に海外に行くのであれば、海外向けの作品を持つべきであると考えていました。そこで以前から暖めていた手影絵だけの作品を試行してみることにしたのです。
手影絵の研究を始めて20余年が経ちます。手影絵の種類だけなら百種類を超えていますし、様々なTV番組やイベントに採り上げられて少なからず実績もあります。しかし手影絵だけの表現によるステージを作るとなると、大分様子が違うのです。“舞台の作品”と言うからには1時間程度は見せなければなりません。そこには体力的な問題も、技術的な問題も山積しているのです。
しかし手影絵の可能性は大きなものがあります。言葉のいらないグローバルな表現である事、“手”ならではの大胆で繊細な表現が可能である事、などです。
手影絵の可能性を活かし、“舞台の作品”として成り立たせるために私は“オリジナルストーリー”を構成する事にしました。
私と今回の参加メンバーによる試行錯誤、共同作業が始まりました。まず何をテーマにして何を訴えるのか、が問題です。体力の時間的な配分も大きな問題です。手影絵の公演には演技者はかなり無理な体勢を取らないと出来ません。機材も多ければ多いほど様々な演出が可能になりますが、私たちは可能な限り少ない機材でチャレンジする事にしました。しかし機材を少なくすればするほど演技者の負担は大きくなります。この作品のために新たに考案された手影絵も生まれました。従来の手影絵からも予想以上の効果が発見されました。一同の知恵を出し合って一つ一つのシーンが作られていきました。そうして作り上げられたのが「Hand Shadows ANIMARE」です。(この名前はドイツでの初演後に正式に命名されました。)
とにかくどこかのフェスティバルに参加してみようと考えていた時に機会をいただき、昨年(09年9月)南ドイツのシュヴェービッシュ・グミュントで行われた「The 8th International Shadow Theater Festival」に参加が出来ました。私たちにとって初めての手影絵だけのパフォーマンス、しかも新作を持って参加するというのですから大変です。
不安を感じながらの公演でしたが大変な反響をいただき、その場で翌年(10年)のオランダ(Meppel)のフェスティバルからの招聘をいただきました。
そして今年(10年)はそのオランダの「The 10th International Puppetry Festival Meppel」とドイツの「The FIDENA Festival 2010 Bochum」の両フェスティバルに参加することが出来ました。どの会場も満席で迎えていただき、大喜びのお客様に接することが出来、スタンディング・オーベーションも受けることが出来ました。そして私たちも沢山の他国の作品や劇団と接することが出来ました。言葉を超えてコミュニケーションを図れる「手影絵」の素晴らしさを改めて感じました。そして何よりも、さらに来年(11年)開催の他国のフェスティバルからの招聘もいただいたのです。
ここまでは順調のようです。しかし私たちは海外の観客についてまだ多くを知っているわけではありません。その時代の世相によるトレンドのようなものもあると思います。現在の「ANIMARE」の路線がどの位の人たちに受け入れてもらえるものか見当などつきません。これから手探りで世界の観客と向き合っていこうと考えています。劇団かかし座のHand Shadowsが物珍しい一時の色物で終わるのか、一定の観客をつかむ事が出来るのか、まだわかりません。でも時間をかけて少しずつチャレンジを続けていこうと思います。助成金を必要としない公演が海外で出来るようになる事が、現在の夢です。

児童・青少年演劇ジャーナル<げき>9掲載 2011年3月発行
編集・発行 児童・青少年演劇ジャーナル〈げき〉編集委員会
発売    晩成書房