最初の経緯
今回の5月の劇団かかし座によるヨーロッパ3カ国公演(ルクセンブルグ、リトアニア、ドイツ)については、昨年から予定されていたもので元々はウクライナ情勢のために準備されたものではありません。EUでは、国際的な文化交流のために「欧州文化首都」という行事が毎年行われています。これはEU圏内の文化的に特徴のある都市2都市程度を指定し、年間を通じて文化に関するLIVEイベントや交流イベントが集中的に行われるものです。以前からこの催しに興味のあった劇団かかし座は、日本の「EUジャパンフェスト」にお世話になりながらアピールをさせてもらっていました。今年はその甲斐あってかかし座の作品を呼んでいただけることになり、その準備を進めていました。ところがその中で始まってしまったのがロシアによるウクライナ侵攻です。初めは何が何やらわからず、どうしたものかと困っておりました。


ロシアのウクライナ侵攻
訪問予定の中のリトアニアはベラルーシの隣国であり、ロシアの飛地であるカリーニングラードにも挟まれた国です。そしてソヴィエト連邦崩壊の時に連邦からいち早く独立し、NATOに加盟した国です。ロシアが本当にソヴィエト連邦復活を狙っているのであれば、遅かれ早かれ狙われる国でしょう。そして他の催しや団体の様子を聞いてみると、やはり渡欧中止にした団体がかなり多いということでした。私たちの様に小さな団体が何らかの戦禍に巻き込まれ、大事な劇団員を失う様な事態になれば、それこそ回復不能なダメージを受けることになります。招聘先からも「こうした事態で、かかし座さんがどの様な決定をされても、それは致し方のないことです。」とも言われました。リトアニアがNATO加盟国であってもそれがどの程度当てになる事なのか、など私たちには分かりません。仕方がないので「いつでもキャンセルの出来る航空券を手配しなさい。」という事にして準備を進めました。しかしロシアのウクライナ侵攻開始直後の驚きから少し時間が経つと、意外にロシアの進軍速度が遅い事、EU諸国のウクライナ支援が早いテンポで進んでいる事などが聞こえて来ました。「それなら行くか!」となったのはもう4月に入っていたかと思います。


新たな提案
その中で浮上して来たのが「行くならウクライナ難民のための公演を持ちませんか?」という劇団内の提案でした。かかし座が公演を主催し、入場料収入は全額ウクライナに寄付、避難民の人たちは無料招待、そのための経費はクラウドファンディングで賄う、というプランです。そしてリトアニアの首都ビルニュスの劇場、keistuolių teatras が全面的に協力してくれる事になったのです。そして、このプロジェクトにGOがかかりました。
私たちは5月11日に羽田発のイスタンブール経由でルクセンブルグに入り、EU文化首都の公演を済ませると、次の公演地がリトアニアです。
リトアニアの街・公演

リトアニアの街は、綺麗で静かです。同じヨーロッパで戦禍が広がっている危機感など全く感じられません。しかし街のあちこちにウクライナカラーのリボンや国旗などが示され、連帯を表現しています。ソヴィエト、ロシアの恐ろしさを生々しい記憶として持っているリトアニアの人々の決意の様なものを感じました。

5月17日、いよいよかかし座のヨーロッパでの初の主催公演「ANIMAREによるウクライナ・エイド」の日が来ました。チケットは売れていると聞いていましたが、2回公演とも嬉しい事に満席。お客さまにも大変喜んでいただきました。海外のお客様はやはり反応が大きくて楽しくなります。この時のビルニュスのお客様もとても大きな反応をくださって一同、実行してよかった!の思いを強くしました。

終わって
後で聞いた話ですが、ウクライナからの避難の皆さんは母子で避難している方が多いとのことです。父親はやはり国に残って戦ってらっしゃるのでしょう。

避難民の方も20人ほどご入場いただきました。その方々には終演後舞台でミニ・W.S.に参加していただき、ひとときの交流をいたしました。ウクライナの子どもたちの笑顔が印象的でした。入場料収入は2,883ユーロ。これは全額アシテジリトアニアを通じて、アシテジウクライナに寄付ができました。


そして今後
この後、私たちはEU文化首都のリトアニア・カウナスへ移動し、国立人形劇場でのフェスティバルに参加し、ドイツフランクフルト公演を経て、5月30日に帰国しました。パンデミック前最後の海外公演が2019年11月の上海でしたから、2年半ぶりの海外公演ツアーでありました。かかし座にとっても海外初の自主公演であったわけですが、今回のロシアによるウクライナ侵攻を受けての企画を実行に移すなどということは当初予想もしませんでした。1日も早い戦争の終息を祈って止みません。